ふぁーみんぐ通信01年5月号

          麻炭(あさずみ)の世界はすばらしい〜今年の花火の巻〜



最近、備長炭(木炭)、竹炭が町の雑貨売り場なんかでよく見かけるように
なった。熱源として木炭や竹炭を使うのではなく、マイナスイオン効果のある
癒し商品、脱臭、水質浄化、お風呂や炊飯器に入れたり、住宅の床に埋
めて、湿気を抑えることなどに使われている。

 私は、麻炭というものをつい最近までその存在すら知らなかった。麻炭の原
料は、免許がないと栽培できない大麻(英語名:ヘンプ、学名:カンナビス・サ
ティバ・L)である。ところで麻炭はどこに使われているのだろうか?

●打ち上げ花火 

花火の割火薬には、麻炭が今でも使われている。割火薬は、酸素を供給して、
燃焼を促進させる「酸化剤」と、燃焼をし易くする「可燃剤(助燃剤)」とで構成さ
れている。

酸化剤:過塩素酸カリウム、硝酸カリウム
可燃剤:松炭、麻炭、桐炭、硫黄、セラック 等が使われています。

過塩素酸カリウム系割薬の配合比例
  過塩素酸カリウム  68%
  硝石           7%
  硫黄           0%
  麻炭           21%
  みじん粉         4%
  もみ殻          13%
※みじん粉はもち米からとった水溶性のデンプン。
  もみ殻は米粒の外側の殻。

花火師さんに聞いたところによると火薬の世界では、麻炭は着火がよく、爆発力
が強くなるため、小さな玉(打ち上げ花火の玉)で大きな梵(大きな花火)がでるこ
とで知られているらしい。麻炭は、木炭のように硬い炭ではなく、柔らかいパウダ
ー状の炭になる。また、薬品が染み込みやすいという特長もある。

 国産の麻炭がなかなか手に入らない現状でもよりよい花火を打ち上げるために
国産麻炭をつかっている花火業者もいくつかある。しかし、花火もスターマインな
どのように大量生産で大量消費(打ち上げ)の傾向が強いため、中国からの安い
ものを使っている業者が大多数となっている。昔からの花火を知る人は、打ち上
げ花火の大きさ(輪)が小さくなったという。私は、安くて、質の劣る、外国産の麻
炭を使ったからだと推測している。

●線香花火 

日本の夏の風物詩?!ともいえる線香花火にも麻炭が使われていました。これ
には、びっくりしました。

線香花火の和剤(火薬)の配合例
 硝石(60%)、硫黄(25%)、油煙(4%)、麻炭(8%)、アントラセン(3%)

線香花火は、なるべく長く火花を得るために適当な割合で燃えやすい炭と燃えに
くい炭をまぜあわせている。麻炭は燃えやすいので大きな火花をパチパチとだす
ために使われていた。残念ながら、今はコストダウンのため木炭配合となってい
る。

4月上旬に国産線香花火を唯一つくる花火屋さんと知り合う機会があった。
線香花火1本:100円で販売している。価格的には、市販のものよりも60倍以上高い!
超高級線香花火である。大事に一本、一本楽しまなければならない。
 できれば国産麻炭をつかって、1本:200円の線香花火を今年の夏に作ってもらい
たいものだ。

●カイロ 

カイロは漢字で「懐炉」と書く。歴史を紐解くと懐炉の発明者は、忍者だったらし
い。忍者といえば、ジャンプ力を鍛えるために成長の早い大麻を毎朝飛び越えた
話を思いだそう。

 忍者のつかった懐炉は、「胴の火」と呼ばれ、銅製の筒に和紙や植物繊維を黒
焼きにしたものを詰めたものである。点火するとゆっくりと燃えて半日ほどもち、
懐に入れて暖をとるだけでなく、火種としても利用している。忍者が活躍できなく
なった江戸初期に民間に転用されたものが「懐炉」といわれている。この懐炉の
灰、「カイロ灰」に麻や穀物を炭にしたものを粉末にして、袋詰めや練り固めて
棒のようにして使われていたのである。

カイロは、昭和初期までこの胴の火方式であったが、白金を使うハッキンカイロが
登場し、現在の使い捨てカイロが1979年から発売されている。

使い捨てカイロの成分例
 鉄粉(63%)、水分(15%)、食塩(3%)、木炭(炭素)(9%)、ヒル石(8
%)、
 その他(2%)

 今では、天体望遠鏡のオプション部品の1つに「カイロ灰」というのがある。天体
観測において朝露防止のために使われている。アマチュア天文家の間では、明
け方の観測に必須のアイテムである。
 星を見るのに大麻が貢献しているなんて!びっくりですね。

●麻炭の特長
 
花火の可燃剤に使われる炭の分析値である。麻炭は比重が軽く、
カリウムが多い。麻炭は、大麻の繊維を剥ぎ取った後の麻幹(おがら)に
を炭化したものである。
 
炭の分析値(%)
    仮比重(g/cc)  水分  灰分  カルシウム  カリウム
麻炭      0.17    15.19  9.87   15.02     32.15
松炭      0.44     8.81  9.63   33.29     4.67
桐炭      0.33     7.09  4.92   14.18     13.63
なら炭     0.51     6.19  3.24   49.92     16.45
みつまた炭  0.32     8.20  10.21  38.36     7.48
 ※カルシウム、カリウムは灰中のもの

竹炭と同じぐらいの多孔質(いっぱい穴があいている)で、水質浄化
や脱臭、調湿剤のような使い方ができると考えられる。

●麻炭の現状・・・どんどん忘れられていく。。。。

中国産の安い木炭などの炭の輸入によって麻炭の需要が減少している。
国産大麻の栽培者の激減によって、国産麻炭はほとんど手に入りにくい。
人件費が約25分の1、世界一の大麻生産国である中国には競争相手に
ならない。
今の若手の花火業者には麻炭のことなど存在すら知らない。
(低コスト、大量打ち上げ花火によって麻炭を使えない状況が長く続いたから)

このように麻炭を取り巻く状況は非常に厳しいものがある。
近年、○○花火大会1万発!のように数を競うような宣伝が多く、それに
よって、花火大会の格付けが決まっているような風潮である。少し昔のよ
うに1発、1発に力の入った、花火師の腕の見せ所といわんばかりの
ドカーーーンとする粋な花火なんて、絶滅危惧種になってしまうのであろ
うか?

そもそも花火は、江戸時代になって大きな戦乱がなくなってから、火縄銃の火
薬技術から発展したものである。今流でいえば、軍事技術の民間転用の賜物
である。
 農業廃棄物であるもみ殻、花火の星の芯に菜種、導火線に麻ひも、炭には
麻や桐や松、玉の外側の皮は和紙、、、、というようにその地域の資源を上手
につかって花火の材料としていたのである。廃棄物ゼロ、すなわちゼロエミッ
ション産業だったのである。(火薬を扱うので危険な産業ですが)

●花火と麻炭のこれから

職人「花火師」としては、よりよい花火を打ち上げたいはずである。
そのためには麻炭は必要不可欠である。ある花火業者さんがおこな
った実験では、国産麻炭と海外麻炭の花火の打ち上げ試験によると
同じ大きさ玉(打ち上げ花火の玉)では、花火の梵(丸の大きさ)が全然
違うという。あきらかに国産の麻炭の方が大きい花火ができ、火薬
の量の節約につながるという。

炭の研究の中では、備長炭、活性炭、竹炭などはある程度蓄積され
たデータが存在するが、麻炭の場合はこのふぁーみんぐ通信に書いた
ぐらいのものしかない。
 私自身も本当に麻炭がどれぐらいよいのか、どんな欠点があるのかを
きちんと調べていくのはこれからである。特に次のような疑問は全くわ
かっていない。

・繊維用と種子用の麻幹(おがら)での炭の燃焼特性の違い
・麻炭の製造方法
・麻炭の新しい用途で適しているもの
・麻炭のマイナスイオン効果

花火と麻のつながり、、、とにかく今年の花火大会が違った視点で楽しめ
そうである。

参考文献:細谷政夫・細谷文夫「花火の科学」東海大学出版会、1999年
       清水武夫「花火」一橋書房、1961年
       
以上







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