大麻草・ヘンプ・HEMP・Cannabisについて総合的に 調査研究し、情報発信するページ
ふぁーみんぐ通信03年2月号
麻の実を食べよう 〜はじめての方への巻〜
●種子と茎は大丈夫です。
大麻の利用には、@産業利用、A伝統工芸、B医療用、C嗜好品の4つに大きく分類
される。大麻というと?嗜好品ばかりに注目されるが、これからは、残りの3つの方
が注目されています。
国内の大麻取締法でも国際的な麻薬の条約でも、大麻の種子と茎は、取締りの対象
外です。規制されているのは、向精神作用物質のTHC(テトラ・ヒドラ・カンナビノー
ル)が多く含まれる花穂と葉の部分です。
昔から大麻には大きくわけて繊維型と薬用型の2つの品種があります。最近では、
ヨーロッパやカナダでは、産業用大麻(Industrial Hemp)というTHCがほとんどない
繊維型の品種が開発され、その品種に限定して栽培されています。ちなみに日本では、
栃木県や岐阜県などで今でも栽培され、神社の神事用、民芸品、大相撲の横綱の化粧
回し、花火の火薬、弓弦などのごくわずかな用途にしか利用されていません。
麻薬に関する単一条約 第28条2より
この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)又は園芸上
の目的のための大麻植物の栽培には、適応しない。(1961年採択)
大麻取締法 第1条
この法律で『大麻』とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をい
う。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子
及びその製品を除く。(1948年施行)
●麻の実を食べよう
さて、大麻が環境によくて利用価値が高いと叫んでも、多くの方にとって半信半疑な
話と思われるでしょう。そこで、私は大麻の食用価値に注目しています。大麻を食べ
るというと大袈裟に聞こえるかもしれません。大麻の種子は、「麻の実(あさのみ、
おのみ)」といわれ、うどんやそばなどの薬味にかける七味唐辛子の一味として入っ
ています。
七味唐辛子の中で一番大きい粒、あれが麻の実です。
麻の実は、大量の必須脂肪酸と必須アミノ酸を含んでいます。これらの必須栄養素
は、人間の体内でつくりだすことはできず、食事としてとる必要があるものです。特
に、麻実油(おのみゆ)には、75%以上の不飽和必須脂肪酸であるリノール酸とα
−リノレン酸があります。これは、一般に食べられている植物の中では最も高い値で
す。これらの不飽和脂肪酸は、アトピー性皮膚炎、心臓血管疾患、関節炎、更年期障
害、ガン、神経性自己免疫疾患などの病気の治療および予防に効果があることがわかっ
ています。
歴史を振り返ると紀元前3000年頃の中国を治めていた皇帝・神農氏が百草をなめて選
別した365種の薬草のなかに「麻」の名があります。神農氏の教えが後世に伝承され
て著された「神農本草経」のなかでは、漢方薬としての麻の効用を次のように言って
います。 「麻仁(まじん)」(麻の実)は、「体や内蔵を修復し、体力の根元とな
る活動力を増す。久しく服用すると体が肥え健やかになり、不老神仙となる」といい、
一種の仙薬に類する効用があるものとしていました。
●日本の郷土食にも麻の実料理
日本にもたくさんの麻の実を使った料理がある。いなり寿司(西日本のみ)、がんも
どき、
けんちん汁が知られています。麻の実を入れることによって、カリカリとした食感を
楽しめるようにした料理が多い。
石川県には、「鯛の唐蒸し」という料理があります。これは、 鯛は背開きにして塩
をしておき、人参・牛蒡・筍などを炒め、木耳(きくらげ)・銀杏・麻の実を混ぜて、
調味した卯の花と混ぜ、鯛に詰めて蒸したものです。
山形県の「あけがらし」は、ある店の商標ですが、これは、仕込み芥子糀に麻の実を
あしらった無添加自然食で、古(いにしえ)の食材です。二百余年に亘り伝承された
技法で仕込んだ「あけがらし」の他に類を見ない不思議な風味と味わいがあります。
原材料は、米麹、芥子、麻の実、生絞り醤油、三温糖をつかっています。
高知県には「いわしの卯の花」という郷土料理があります。高知県では今でも大麻の
栽培が行われ、麻の実を食材に使っている地域です。卯の花は甘酢で調味し、生姜・
刻みネギ・麻の実などを混ぜて握っておき、イワシは薄塩をして甘酢に漬けた物を卯
の花の上におきます。
●麻の実の特徴と注目されるわけ
1.食材として利用しやすくなった
麻の実には、硬い殻があり、この殻をうまく剥がす技術が最近開発されました。殻を
取り除くことによって食品加工や調理がしやすくなり、食感がとてもよくなりました。
麻の実は、食材としての可能性が無限大になったといえるでしょう。
2.味がよい
クルミの実のような上品なナッツ類の味がします。豆腐にしたり、サラダに和えたり、
お菓子の材料にしたり、バターやディップス、牛乳の替わりにミルクやチーズ、アイ
スクリームにも使えます。低温圧搾法のような油の成分をなるべく壊さずに搾られた
麻実油もまた上品なナッツの味がします。ドレッシングやマヨネーズ、隠し味として
グルメの食卓には欠かせないオイルです。
3.良質なタンパク質が含まれる
畑の肉といわれる大豆と同じぐらいのタンパク質を含み、しかも大豆タンパクよりも
消化吸収にすぐれています。また人間の体でつくることができない必須アミノ酸もす
べて含まれています。この必須アミノ酸は、筋組織や体内酵素、細胞膜や抗体の形成
に不可欠なものです。
4.不飽和必須脂肪酸が豊富
麻の実から採れるオイルは、80%が細胞の成長や健康な皮膚、病気防止のため絶対
に欠かせない必須脂肪酸(リノール酸、α−リノレン酸)を含んでいます。この不飽
和必須脂肪酸は、様々な病気(アトピー性皮膚炎・乾癬・にきび・関節炎・多発性硬
化症・ガン・月経前緊張症・更年期性うつ)の治療やその他の病気(心疾患・骨粗しょ
う症・ガン)の予防に効果があります。
また、麻実油は、ボディケア用品にも使われています。皮膚乾燥を防ぎ、皮膚疾患
の症状を緩和し、皮膚の老化対策に効果があります。
5.麻の栽培は、他の作物と比べて環境負荷が低い。
殺虫剤や除草剤などの化学農薬をほとんど必要としません。そのため、消費者は
残留農薬や環境汚染の心配をせずに食べることができます。
6.自然食志向に合った食材である
加工、味、栄養、環境のそれぞれの観点から麻の実は、穀物菜食の食生活にとて
も相性がよいといえます。麻の実は、ビタミン・ミネラルもバランスよく含まれてい
て、一種の完全栄養食といえるでしょう。
●麻の実のこれから
私たちが口にする麻の実は、そのほとんどが中国から輸入されたものです。「輸入公
表」といわれる経済産業省の規定によって、輸入された麻の実は、不正に栽培されな
いように「非発芽処理(加熱処理)」されています。
また、輸送の距離が長い上、税関手続で時間がかかります。新鮮で安全な麻の実を
手に入れるには、日本国内での生産が大きな課題です。麻の実は、縄文の昔より
日本人に馴染みのある作物なので、国内生産を復活させるのは「身土不ニ」の精神に
基づくものといえるでしょう。
ちなみに1反当りの収量は、約150kgで1000円/kgぐらいで取引されています。普及される課
題としては、生産、加工、流通、販売までのそれぞれにクリアすることがあります。
栽培免許の取得、油分の多い栄養価の高い品種の開発、収穫機械の導入(大規模栽培
の場合)、魅力的な加工食品の開発、硬い殻剥き機の開発(業務用や家庭用)、料理
をつくる人と食べる人を増やす・・・・と課題だらけです。これはいろんな方の協力
と情熱がないと一筋縄ではいかな〜という感じです。
●もっと麻のことが知りたい方へ
麻は、調べれば調べるほど、奥が深く、幅が広く、とても面白いテーマです。歴史、
文化、産業、技術、農業、料理など自分の興味のあるところから見ていくのがよいと
思います。特に料理に関しては、次の本をお薦めします。
麻の実クッキング 〜21世紀を拓く自然の恵み〜
赤星栄志著 日本麻協会発行 A5判72ページ
500円 2001年3月10日発行
麻の実の栄養価、生活習慣病の予防・改善に役立つ麻の実、麻の実の食品利用、約4
0もの麻の実レシピを掲載。栄養、加工、味と地球の環境にとってもよい麻の実のエッ
センスを紹介。
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