ふぁーみんぐ通信06年10月号

            麻、大麻草、ヘンプ、マリファナ、大麻
                〜定義とイメージの巻〜



●最近のヘンプの紹介文

ヘンプを簡潔に紹介する文章として、次のようなものを雛形として使っている。

ヘンプ(英語名:Hemp)とは、アサ科1 年草の双子葉植物で、学名は、”Cannabis sativa L.”という資源作物である。この資源作物は、和名で大麻草(たいまそう)と呼ばれ、品種に繊維型と薬用型があり、特に繊維型でマリファナ効果のない品種を産業用ヘンプ(Industrial Hemp)と呼ばれる。

この作物は@農薬や化学肥料がほとんどいらないために環境負荷が低い、A衣類、食品、化粧品、紙、建材、自動車部品(複合素材)、肥料、燃料など様々な生活用品、工業製品ができるために付加価値が高い、B縄文土器の縄目模様、神社の鈴縄・注連縄、畳縦糸、茅葺屋根材、下駄の鼻緒、弓弦、横綱の化粧回し、花火の助燃材、七味唐辛子などの各原料に利用され、日本の文化や歴史に関係が深いという特徴をもつ。

高等植物には珍しい雌雄異株で、冷帯、温帯、熱帯と栽培環境の領域が広く、現在でも世界各地で栽培されている。人類の有史以来、紐や布などの衣類を中心とした繊維作物であったが、第二次世界大戦後の化学繊維の普及と世界の麻薬政策(マリファナの規制)によって、激減した作物である。

しかし、EU やカナダなどで、ヘンプが森林資源と石油資源の代替となる可能性のある古くて新しい資源作物として1990 年代から栽培規制が緩和され、産業利用がはじまった。従来からの衣類や紐だけでなく、繊維をメルセデスベンツやBMW などで採用されている自動車内装材、住宅用断熱材、非木材紙のパルプ原料、茎の心材を競走馬の敷藁、木材ボードの代替、種子を健康食品、種子油を化粧品などに製品化されている。


●定義とイメージ


麻、大麻、大麻草、ヘンプ、マリファナは、すべて植物学的に同じものを指しているが、それぞれの定義と一般的なイメージのギャップが存在する。

麻というと一般的には、夏の服というイメージがあり、実際にそのようなものだと認識されている。しかし、私がメインとして扱っている「麻」は、衣料業界が使っている麻とは異なる。衣料業界の麻は、家庭用品品質表示法で定められている「麻」で、植物としては、亜麻(英名;フラックス)、苧麻(英名:ラミー)の2 種類であり、大麻草のことではない。

大麻草から採れる繊維を衣服にした場合は、「ヘンプ(指定外繊維)」と商品タグにつけなければならない。縄文時代から使われてきた「麻」にも関わらず、法律上、「麻」と名乗れず、指定外とされる。また、麻は、広辞苑の定義@ア)のように亜麻、苧麻、黄麻、マニラ麻と様々な麻系繊維のことをいうので、話し手によって、どの麻を対象としているのかを確認しないと会話の不一致が生じやすい。

<家庭用品品質表示法(1962 年制定)による定義>
(家庭用品)
第一条 家庭用品品質表示法(以下「法」という。)第二条第一項の家庭用品は、別表のとおりとする。
別表(第一条関係)
一 繊維製品 麻(亜麻及び苧麻に限る。

<広辞苑第五版(岩波書店)による定義>

あさ【麻】
@(ア)大麻(タイマ)・苧麻(カラムシ)・黄麻・亜麻・マニラ麻などの総称。また、これらの原料から製した繊維。糸・綱・網・帆布・衣服用麻布・ズックなどに作る。お。

(イ)アサ科の一年草。中央アジア原産とされる繊維作物。茎は四角く高さ1〜3 メートル。雌雄異株。夏、葉腋に単性花を生じ、花後、痩果(おのみ)を結ぶ。夏秋の間に茎を刈り、皮から繊維を採る。実は鳥の飼料とするほか、緩下剤として麻子仁丸の主薬とされる。紅花・藍とともに三草と呼ばれ、古くから全国に栽培された。ハシシュ・マリファナの原料。大麻草。あさお。お。

A麻布の略。


広辞苑の「あさ」の@アを表にしたものが、次の通りである。

図表1 麻と呼ばれる繊維作物
大麻草 亜麻 苧麻 ジュート麻 マニラ麻 サイザル麻 ケナフ
呼名 タイマソウ アマ チョマ
別名 Hemp
ヘンプ
Flax
フラックス
リネン
Ramie
ラミー
からむし
Jute
ジュート
黄麻(コウマ)
Abaca
アバカ
Sisal Hemp
Kenaf
洋麻
分類 アサ科
1年草
アマ科
1年草
イラクサ科
多年草
シナノキ科
1年草
バショウ科
多年草
ヒガンバナ科
多年草
アオイ科
主な
生産国
中国
フランス
中国
フランス
中国
ブラジル
フィリピン
インド
バングラディッシュ
中国
フィリピン
エクアドル
コスタリカ
ブラジル
中国
メキシコ
インド
日本の
産地
栃木
長野
北海道 本州各地
福島
熊本、大分 なし なし なし
用途 下駄の鼻緒
蚊帳、衣料
混紡地
畳の縦糸
服、シャツ
帆布、魚網
ホース、
芯地
服、シャツ、
寝装具、
資材、魚網
芯地
麻袋、括糸
導火線、
ヘキアンクロス
カーペット
ロープ
魚網
インテリアマット
機能紙
ロープ
敷物
マニラ麻
の代用
麻袋

製紙原料

出典:トスコの資料より
注)「麻」とつく植物は、植物学的に分類(科)が異なり、全く別のものである。

麻というと聞こえはよいが、その植物和名である「大麻草」や「大麻」というと急に眉間にしわを寄せられる。電車や喫茶店で、大麻(タイマ)という単語を使った会話をしていたら、極端な話、警察に通報されるかもしれない。テレビや新聞紙上で、大麻所持で有名人や報道関係者が逮捕される情報が一般的であるため、大麻=乱用薬物という図式が認識されている。大麻草という植物の立場から見ると、薬物として指定されているのは、大麻草の葉と花穂という一部の部位だけであり、しかも薬用型の品種に限定された話なのである。

日本は、縄文時代の鳥浜遺跡からも大麻草の繊維や種子が発見されており、古来から栽培されてきた作物であり、しかも在来のものは、薬理作用のない繊維型の品種であることはほとんど知られていない。知られていないというより、第二次世界大戦直後の1950 年代まで、下駄の鼻緒、畳の縦糸、魚網は、
大麻草の繊維を使っており、現在の70 歳以上の方にとっては生活必需品だったもので、現在からみる
と忘れ去られた植物ということができる



出典:「ヘンプ読本」より

大麻とは、法律上、大麻草の葉と花穂のことであり、これを所持することが大麻取締法で違法にあたる。マリファナとは、大麻草の葉や花穂を乾燥させて、タバコのように喫煙できるようにしたマリファナ煙草のことである。図表2を見ると、合法か違法かという区分を取り除けば、伝統、産業、医療、嗜好と非常に幅広い活用用法があるにも関わらず、一般的には、大麻というと嗜好品分野のことしか認識されていない。

図表3 大麻草の品種
品種 成分式 含有量
・薬用型 THC>CBD THC含有量が重量比2〜6%と高く、CBDを含有しない
・中間型 THC=CBD ややTHC含有量が多い
・繊維型 THC<CBD THC含有量が重量比0.25%未満
 出典:「大麻の文化と科学」より


また、大麻草には大きくわけて、薬用型、繊維型という品種の違いがあり、それは、大麻草に含まれる生理活性物質テトラヒドラカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)の含有割合による。日本では、品種で栽培規制されていないため、大麻取締法の規定に従って、都道府県知事の許可を得ないと栽培できない制度になっている。海外では、繊維型であれば、葉をハーブティーとして商品化され、花穂から匂い成分を抽出して、天然香料の原料や香水などに商品化されている。

最近では、ヘンプアクセサリーという手芸分野で「ヘンプ」が有名になったこともあり、ヘンプといえばアクセサリーという認識もされ、日本国内で地域興しや農業の観点からもヘンプ栽培に興味がある人も増えている。そのため、ヘンプを栽培するのに都道府県知事の許可が必要であるとかを全く知らないで、なぜ規制されているのかという問い合わせも多い。また、ヘンプは品種的にマリファナの原料にならないのに、しかも、マリファナそのものも安全性が高い薬物(致死量がない)のになぜ規制されているのかわからないという率直な意見も多く、産業利用したい人にとって栽培規制が足かせになっている。


たい‐ま【大麻】
@伊勢神宮および諸社から授与するお札。
A幣(ヌサ)の尊敬語。おおぬさ。
B麻(アサ)の別称。
Cアサから製した麻薬。栽培種の花序からとったものをガンジャ、野生の花序や葉
からとったものをマリファナ、雌株の花序と上部の葉から分泌される樹脂を粉にし
たものをハシシュといい、総称して大麻という。喫煙すると多幸感・開放感があり幻
覚・妄想・興奮を来す。
<岩波書店「広辞苑」第5版より>

さらに言えることは、第二次世界大戦前と第二次世界大戦後の「大麻」の認識が異なっている。広辞苑の定義を見るとわかるが、戦前は、「大麻」といえば第一に御札のこと指していた。今でも神社にいけば、伊勢神宮大麻と書いた札を購入することができ、神棚にも神様の印として飾ってある。また、神道の世界では、今日でも大麻草はたいへん神聖な植物であり、罪や穢れを祓う幣(ヌサ)、つまり、神主が御祓いするときに振る棒に大麻草の繊維が使われている。今では、所持していたら葉や花穂であれば罪になる。価値が全くの正反対になっているのが現状である。

●まとめ

資源作物ヘンプを巡って、日本においては、次の3つの状況下にある。
・麻、大麻、大麻草、ヘンプ、マリファナなどと呼び名がたくさんあって混乱が起きている
・法律の規制部位、品種の違いがあまり知られていない
・THC が麻薬扱いのため、嗜好品としての使い方が一部にも関わらず、植物の存在そのものが全否定されている。

このような現状を打開し、消えそうな日本の伝統文化を守り、新しい展開を図ることは、とてもワクワクすることである。価値観の転換を様々な分野で求められているが、このヘンプの分野もおそらくその一つだと思われる。

以上




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