11年2月号

           麻の実の不老長寿成分「カンナビシンA」
       ~東京・銀座の巴馬(BAMA)ロハスカフェが開店の巻~




1.はじめに

 麻の実(あさのみ、おのみ)は、アサ科1年草で、大麻草(Cannabis sativa L.)の成熟した種子であり、漢方薬の原料として麻子仁(マシニン)と呼ばれている。麻の実には、たんぱく質20~30%、脂質25~35%、食物繊維20~30%、鉄、銅、亜鉛及びマグネシウム等のミネラル分、ビタミンE、ビタミンK等を豊富に含んでいる。特に脂質の中で必須脂肪酸の割合は、約80%とすべての植物油の中で最も多く含まれ、リノール酸とα‐リノレン酸を3:1と理想的なバランスで含んでいる。これらの栄養価の高さから「天然サプリメント」と呼ばれ、欧米諸国を中心に愛好者を増やしつつある(1)(2)。
 近年、麻の実の薬理研究が進み、整腸作用及び血糖降下作用に加えて、ポリフェノールの一種であるカンナビシンA(Cannabisin A)による抗酸化作用、抗老化作用が注目されている。今回は、この研究の背景となった中国の長寿の里「巴馬(バーマ)県」を事例として、その地域の麻の実摂取量を日本人の栄養摂取基準(2010年版)に照らし合わせて、麻の実の有用性について少しまとめたものを紹介する。


2.中国・巴馬(バーマ)県の長寿食「麻の実」

 麻の実は、典型的な薬食同源の食材である。中医薬学の基礎となった「神農本草経」では、“主補中益気。久服肥健、不老神仙”と紹介され、その意味は「主に内臓の機能を補い、元気を益す作用がある。長く服用していると、体が肥えて健康になり、年をとっても老いることなく、神人や仙人になれる」とある(3) 。

 神農本草経の“不老神仙”を実践して証明している地域が中国の広西チワン族自治区巴馬(バーマ)県にある。ここは、世界有数の長寿の里として知られており、日本に2009年5月に女優の吉本多美香とともにNHKのBSで「世界で一番長生きが多い里 ~中国・巴馬~」というタイトルで90分のドキュメンタリー番組で紹介されている(4)。長寿の里として有名になったきっかけは、1981年にドイツで行われた第12回国際老年医学会で世界長寿地帯として認定され、さらに1991年11月1日に東京で開かれた第13回国際自然医学会で世界五大長寿の里として認定を受けたことによる(5) 。


中国・広西チワン族自治区巴馬県の位置

 2008年末の統計によると、巴馬で健在の100歳以上の老人は81人で、1万人当たり3.2人の割合となり、国連が定めた世界の長寿の里認定基準(人口1万人当たり0.75人)を大きく上回り、世界最高水準の比率である(6)。世界一の平均長寿を誇る日本の100歳以上の長寿者は、全国平均で人口1万人当たり3.4人、第1位の島根県は7.4人となる(7)。この数字だけで比較すると巴馬県は、日本より水準が同等もしくは低いと見なされるが、巴馬県の長寿者は全員現役で急斜面の多い山間部の野良仕事を毎日行っており、寝たきりや認知症が全くいない(8)。日本の100歳以上の長寿者は、約50%が寝たきりで、巴馬県のように活動的な方は23%に過ぎない(9)。日本は、長命者が単に多いだけで、長寿者がないのである。質的には、巴馬県に全く太刀打ちできないのである。

 巴馬が長寿地帯となった要因は、巴馬長寿博物館によると第一に自然環境の力、第二に食べ物の力を取り上げている。特に食べ物の力の特徴として、麻の実(現地では火麻仁(ホマニン)と呼ばれる)を常食としていることが挙げられている。巴馬の長寿者は、麻の実スープや麻の実粥を好んで食べ、主食のトウモロコシ粥の上に食べる前にスプーン1~2杯分の麻の実油を垂らしてから食べている。巴馬の長寿者の食事調査研究では、年間15~20㎏の麻の実を摂取していることが報告されている(10)。

 麻の実スープは、少量の水を加えて石臼で磨り潰し、殻を取り除くために白布で濾し、その白濁液を火で熱し、浮かんできた上澄みを使って、白菜の一種である茶菜(Jiesai)を細かく刻んで湯通したものと合わせてつくったものである。麻の実スープや麻の実油は、長寿者のみでなく、子どもから100歳以上まで五世代家族全員の常食であり、観光客向けの巴馬県内の民宿から高級ホテルまでどこでも食べることができる。


3.抗酸化・抗老化作用のカンナビシンA

 人は酸素を取り入れて、エネルギーを作り出すときに一部の酸素は化学変化を起こして活性酸素というものを発生させる。活性酸素は体内に侵入してきた細菌などを排除する作用も持つが、過剰に活性酸素が発生した場合に問題となる。現代人は、過食、喫煙、大気汚染、紫外線、ストレスなど活性酸素が発生しやすい状況にある。この活性酸素を抑えることを抗酸化作用と呼ばれ、その作用をもつものを抗酸化物質という。抗酸化物質は食品の酸化的劣化や栄養成分の損失を防ぎ,生体内でもラジカルを捕捉して生体膜脂質の過酸化反応を抑えて,種々の疾病,老化や発癌を抑制するものと考えられている。抗酸化物質は、アスコルビン酸(ビタミンC)、α‐トコフェロール(ビタミンE)、β-カロチン、ポリフェノールなどがよく知られている。
 カンナビシンA


 麻の実には、フィトケミカル(植物性化学物質)のポリフェノールの一種であり、リグナンアミド類に属するカンナビシンAからカンナビシンGまで発見及び同定されている(11)。長寿の里である巴馬県の麻の実を用いて、カンナビシンAの抗酸化力の評価がDPPH・、O2‾(スーパオキシドアニオンラジカル)、OH・(ヒドロキシルラジカル)の3つを用いて、活性酸素50%消去する有効濃度(EC50)に関する報告(12)がある。それぞれの結果は、有効濃度EC50が11.86μg/ml、0.5893mg/ml、16.80μg/mlであった。DPPH・では、抗酸化物質の標準物質に使われているビタミンE:58μg/mlと比較しても5倍の抗酸化の活性があることがわかる(13)。カンナビシンAは、麻の実独自の抗酸化物質であり、その活性値も高いことが明らかとなったのである。

 また、抗酸化力の評価には、アメリカ農務省と国立老化研究所が開発した活性酸素吸収能力(ORAC:オーラックと呼ばれる)を分析する手法がある。これは、抗酸化力をビタミンE様物質(Trolox)に換算して求めるものである。この手法では、1g当たりORAC単位の果物は10~60の範囲でブルーベリーやラズベリーが高く、野菜は5~25が開発の範囲でホウレンソウが高い値を示した報告がある。抗酸化物質である茶カテキンが10000、ビタミンCが5000、ビタミンEが3000、コーヒーに含まれる抗酸化物質クロロゲン酸8500である(14)。麻の実自体の評価はまだ報告されていないが、漢方薬分野で処方薬である麻子仁丸が716、方剤素材316、方剤エキス2387で、すべての漢方処方薬の中で第3位と報告されている。漢方薬分野では非常に抗酸化力が高いことが明らかとなっている(15)。

 カンナビシンAは、麻の実に0.343%含まれており(16)、中国・巴馬県の1日当たりの麻の実摂取量40~55gでは、カンナビシンAを138㎎~189㎎摂取することになる。カンナビシンAもポリフェノールの一種であるとされているので、ポリフェノールの多いものと比較すると、赤ワインで100ml中230㎎、コーヒーで200㎎、緑茶で115㎎となり、コーヒーと緑茶の間ぐらいの値となる。


4.巴馬の長寿者と同じ麻の実摂取量でアンチエイジング

  巴馬の長寿者の1日摂取量45gで換算すると、それぞれの充足率は、n-3系脂肪酸(116%)を筆頭に、食物繊維(60%)、鉄(78%)、銅(97%)、亜鉛(38%)、マグネシウム(70%)となります。特に鉄、銅、亜鉛のミネラルは、老化の原因となる活性酸素を除去するSOD(スーパー・オキシド・ディスターゼ)を作るのに欠かせない成分である。
ポリフェノールの一種であるカンナビシンAとSOD生成に欠かせないミネラルが豊富な麻の実は、高齢化社会に生きる日本人のアンチエイジング食材である。

日本人の食事摂取基準(2010年版)(17)と麻の実45gの充足率

(%)

 巴馬の研究では、カンナビシンAの有用性が明らかとなったが、麻の実には、それ以外にも優れた栄養価をもつことが知られている。最も有名なことは、人体で合成できない必須脂肪酸が80%以上含まれ、その必須脂肪酸の割合は、厚生労働省やWHO(世界保健機構)が推奨する4:1の割合に最も近いことある。必須脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸が3:1とバランスよく含まれ、α-リノレン酸は血管を柔らかくする作用があり、動脈硬化、脳血栓、心筋梗塞の予防となるのである。

麻の実の脂肪酸には、γ-リノレン酸が1~3%含まれるため、生理痛、PMS(生理前症候群)、アトピー性皮膚炎、リウマチ、中性脂肪降下、HDL(善玉)コレステロール上昇などの効果・症状改善に役立つ成分として注目されているものである。さらに、必須アミノ酸を全て含み、大豆よりも消化吸収のよいエデスチン・タンパク質を65%含む。このエデスチン・タンパク質は、酵素、ホルモン、免疫抗体の原料となる(1)(2)。



5.東京・銀座に巴馬ロハスカフェが開店

 ロハスピープルのための快適生活マガジン『ソトコト』が、中国財閥・深圳華昱投資開発(集団)有限公司との共同事業として、銀座六丁目・みゆき通りに『巴馬ロハスカフェ』(東京都中央区銀座6-11-1 銀座ソトコトロハス館 1Fを2011 年1 月19 日(水)にグランドオープンした。
 
 中国広西チワン族自治区にある世界的に有名な長寿村「巴馬 / BAMA」で、長寿の秘薬として食されている「火麻」(ひま:麻の実の中国語名)をふんだんに使い、点心から一品料理、デザートまで洗練されたオリジナル長寿料理をご提供している。

『巴馬ロハスカフェ』では、内装・外装デザインは、日本を代表する建築家・隈研吾氏が「巴馬 /BAMA」へ実際に足を運び、想を得、美しい自然のなか三世代、四世代が仲良く暮らす「巴馬 /BAMA」を体感できる空間となっている。

東京・銀座の真ん中に、老若男女が楽しく集い、語らい、食事する場をプロデュースし、現代日本の高齢化社会における「幸福な長寿」の在り方について、今後さまざまな提案をしていく予定である。



詳しくは、巴馬ロハスカフェ http://www.bama-cafe.com/



<参考文献>

(1)赤星栄志, 水間礼子:体にやさしい麻の実料理, 創森社, p.80-83(2004)

(2)麻の実健康プロジェクト:お手軽かんたん健康美人の「麻の実」ごはん.ぶんか社, 2009

(3)浜田善利, 小曽戸丈夫:意釈神農本草経増補第三版, 築地書館, p.145(1987

(4)NHKオンデマンド・プレミアム8世界一番紀行 世界で一番長生きが多い里~中国・広西巴馬~ https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2009013650SA000/index.html?capid=mailmaga004

(5)巴馬長寿博物館の展示には、日本の森下敬一医学博士を長とする世界長寿郷調査団及び国際自然医学会の功績が称えられている。

(6) Tang Yuankai,The Secrets of Long Life,CHINAFRICA,VOL.3 January 2011  http://www.chinafrica.cn/english/lifestyle/txt/2011-01/01/content_322418.htm

(7) 厚生労働省:百歳高齢者に対する祝状及び記念品の贈呈について2010914http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000roq6-img/2r9852000000rorn.pdf

(8)黄克林:世界第五寿之——广西巴马长寿因素合分析, 广西医学, 151, p.17-221993

(9) 財団法人長寿科学振興財団「健やかに老いるために2002-長寿科学総合研究の成果から-」厚生労働科学研究費長寿科学総合研究事業(平成1113年度)成果報告書

(10)陈进超:巴马长寿地区総合研究, 马长寿养生旅游国研究会, p.28-312008

(11)榊原厳ら:麻子仁の成分研究その3, 日本生薬学会年会講演要旨集, 41, p.238(1994)

(12) 吴娜ら:巴火麻仁木脂素提取物的定及清除自由基活性的研究,化学学報,67(7),p700-704(2009)

(13)ビタミンEEC50の値は、研究テーマによって大きく異なる。正確な比較は、ビタミンEを対照とした麻の実研究が望まれる。58μg/mlの値は、次のサイトのp.32を参照した。 http://scfdb.tokyo.jst.go.jp/pdf/20061510/2008/200615102008rr.pdf

(14)太陽化学化学株式会社サイトより引用 http://www.taiyokagaku.com/jp/functional/functional_orac.html

(15) 財団法人未来工学研究所:漢方薬抗酸化能のORACによる評価,平成20年アニュアルレポート,Ⅵ-3p.1-2(2008)

(16).三种产地火麻仁中Cannabisin A的含量测定,天然产物研究与开发,p19-222009

(17)日本人の食事摂取基準(2010年版) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/sessyu-kijun.html

 




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