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12年9月号
EBM(科学的根拠に基づく医療)と印象操作
〜大麻草の記事を読むの巻〜
●EBM=Evidence-Based Medicineとは何か?
医療の世界や政策の世界でも、科学的根拠に基づく医療、科学的根拠に基づく政策が重要と認識されている。このEBMがでてきた背景は、次の2つにまとめられる。
@1980年代の米国国立図書館による医学情報データベース化
例)MEDLINE 検索エンジンPubmed
世界で最もよく使用される生物医学系データベース
A疫学・統計的手法の発達による研究デザインの進歩
<データのバイアス(偏り)を排除する手法>
例)RCT:Randomized Controlled Trial ランダム化比較試験
データベースが進んで、研究デザインが進歩したことで、膨大な研究データの信頼性の高い、低いが評価されるようになったのである。
EBMは、1992年にGordon Guyattらが提唱したのがはじまりとされている。
●EBM(エビデンス)にはレベルがある!
レベル | |
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(4) | |
(3) | |
(2) | |
(1) |
現在の医療用医薬品は、全てランダム化比較試験(RCT)で有効性が確認されたもの(7)である。
現代西洋医学においては、「医療大麻でガンが治りました!」という体験談(1)や、医療大麻を使った患者をたくさん診ていた医師が「医療大麻は有効な治療になる!」という意見(1)は、信頼性が低いものと見なされ、もっと信頼性の高いデータないの???と言われてしまうのである。
具体的なイメージをもっと湧きやすくするために、ある記事をEBMに基づいて見ると、印象操作が簡単にできてしまう例を見てみよう。
●BBCニュース1998年2月19日 の記事より
大麻はアルコールやタバコより安全
大麻の場合、精神的減退は起こりにくく、
90%は使用中止することができる、
肺機能に影響なし。
科学雑誌(英)ニューサイエンテストによると科学者たちは大麻に関する多くの根拠のない作り話を非難した。
大麻はアルコールやタバコより安全だという報告書を世界保健機構が隠匿したと言われている。
1997年12月に15年ぶりに世界保健機構が大麻に関する報告書を発表したがニューサイエンテストによれば大麻を他の合法とされている薬物を比較している部分が削除されているというのである。というのも機構はそれらの比較がマリファナ合法化キャンペーンを推進するうえで格好の攻撃材料に使われることを懸念してのことだろうというのである。
ニューサイエンテストによれば、全米薬物濫用に関する規制組織(USNIDA)と国連薬物規制委員会(UNDCP)の顧問がWHOにその報告書はマリファナ合法化運動グループにとって有利に働いてしまうと警告したと言われているそうだ。
WHOの薬物濫用に関わっている科学者であるMaristela Monteiro 博士はその分析が報告書から削除されたことは認めたが、そうするように圧力をかけられたことはなかったと言った。
彼女は「その分析は我々には公平に比較されたものとは思えなかったし、公衆の健康という視点からも有益なものとは思えなかった。我々はこれはカンナビスの害をより少なく見せようという偏った分析であると思った。
ニューサイエンテストは、この分析はマリファナがアルコールやタバコより公衆の健康を脅かすという点においてより害は少ないということを示した。と主張した。
研究者たちの調査ではマリファナを吸うことで気管が詰まったり、気腫になったり何らかの影響を肺機能にもたらすことはなかったし、アルコールやタバコより習慣性は少ないということが判明している。→レベル(5)(4)
Aberdeen Univ.のRoger Pertwee博士は「長期的にみて大麻の有害性を示す証拠はほとんど認められない」と言っている。「問題なのは大麻に関する賛否両論はいずれの場合もとても偏見が強く思い入れも強く、それぞれが事実を都合良いように操作したり、利用する事実を選んだりすることだ」
調査をしたthe University of Amsterdamは1976年のマリファナ解禁からオランダにおいて急にマリファナの使用が増えた事実はないとのことである。→レベル(3)
ニューサイエンスによれば過去10年間オランダにおける重症の薬物中毒者の数は増えていない。→レベル(3)
オランダの科学者も大麻に関する多くの根拠のない作り話を暴露しており、以下の事柄を発見した。
大麻が精神的退廃、低下をもたらす証拠はみとめられない。 →レベル(5)(4)
習慣性を示すものはない。使用した人の90%がその後使用中止している。→レベル(5)(4)
大量の大麻を吸っても肺の機能、能力が害されることはない。 →レベル(5)(4)
しかしマリファナ・リハビリテーションを経営するRobin Lefeverが言うには、彼はこの薬物に中毒になりひどい目に遭った。彼はとても気分が塞ぎ暗くなり毎日がどうにもならなかった、まったく自殺したいくらい落ち込んでいた。
→レベル(1)
科学者は大麻は短期の記憶力、精神的機敏性に影響し統合失調症のような精神的障害を引き起こすきっかけになることもあることは認めている。
英国上院は現在、大麻使用がもたらす法律上、また医学的影響、乱用性についてなどを調査しているが、合法化を目指す運動は幾多の困難に直面している。
内務大臣Jack Strawは自身の息子Williamは昨年ロンドンのパブで薬物を売っていることを警告された。この内務大臣はたとえ大麻が医療目的であっても合法化には反対している。
→レベル(1)
●エビデンスのレベルを知らなければ印象操作ができてしまう
このBBCニュースの記事は、日本の厚生労働省も翻訳したものをホームページに掲載しているWHO(世界保健機構)の「大麻:健康上の観点と研究課題」というタイトルの重要なレポートのエピソードである。
「大麻はアルコールやタバコより安全だという報告書を世界保健機構が隠匿したと言われている。」というトピックも重大なお話であるが、ここではエビデンスのレベルの観点からこのこの記事を見てみると、
大麻の有害性が低いと報告されている記事は、すべてエビデンスのレベルが症例報告(3)、患者対照(4)、コホート研究(5)であるのに対して、大麻の有害性がある、合法化反対という話は、体験談(1)、権威者の意見(1)である。
この記事を読んで、エビデンスのレベルを知らなければ、有害性が低いと研究結果がでていても、やはり有害なこともあるではないか!、だから従来通り規制しておいたほうがよいというふうに読み取れる。
しかし、エビデンスのレベルがあることを知ると、BBCというマスコミは、賛否両論を一応掲載するという方針があるので、有害性が低いという意見があるなら、その反対の意見も掲載しておいて無難な記事にした。ということが読み取れる。
●エビデンスは絶対的な基準か?
現代西洋医学においては、EBM(エビデンス)が重視されているいるが、欠点がないわけではない。科学研究や臨床研究は日進月歩であり、常に最新情報のエビデンスを知ること=現実的に難しいという問題がある。さらに、エビデンスがあっても目の前の患者に適切かどうかの判断をしなければならいという問題もある。
代替医療と呼ばれる分野では、ランダム化比較試験が難しいものもある。例えば、マッサージのような身体療法。マッサージのプラセボ(偽薬)なんて無理!!。
このような欠点を抱えつつも、エビデンスの視点で記事を読むということは、メディアリテラシーの一つになりうる。少なくともマスコミの記者は、賛否両論の意見を必ず載せて、記事らしくするように訓練されている。大麻のような記事だと、エビデンスのレベルが異なるのに同列に扱っているようなものが多いように思われる。
このような記事に翻弄されないためにも、エビデンスにレベルがあることをぜひ知ってもらいたいのである。
●参考HP
BBCニュース
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/58013.stm
国連機関による大麻報告など(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/other/kokusaikikan.html
以上
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