大麻草・ヘンプ・HEMP・Cannabisについて総合的に 調査研究し、情報発信するページ

12年10月号
Sativex(サティベックス)を開発したイギリスGW製薬
〜世界初の天然由来大麻医薬品の巻〜
●マリファナの科学の著者が会長のイギリスGW製薬
イギリスのGW製薬は、1998年6月にイギリス医薬品庁から医薬品製造・大麻栽培の免許取得した創薬ベンチャー会社である。この会社の会長は、ジェフリー=ガイ(下記写真)である。日本でもガイ会長が書いた翻訳本「マリファナ科学」(築地書館、2003年)が発売されている。従来の感情的なマリファナの有害・無害論に偏らずに、科学的な見地から記述した良書である。GW製薬を知るには、まずはこのマリファナの科学の本を読むべきである。
この会社を立ち上げる4年前の1994年には、イギリスでマリファナ効果のないヘンプ(産業用大麻)の栽培が初めて許可されていた。麻の免許という意味では、イギリス国内で2番目の免許なのである。この免許の取得にあたっては、種子の確保が大きな課題であった。きちんとした医薬品会社なので、アンダーグラウンドな市場から種子を入手することは難しく、さらにどのような種子の品種かどうかを不明なものを入手することは、リスクの大きいことであった。
この種子入手問題を解決したのは、オランダで1994年に申請し、1997年に栽培免許を取得したHortaPharm社である。この会社は、世界的な大麻品種、植物学で超有名なデビット・ワトソンとロバート・クラークによって設立された。彼らは、医療用に適したハイクオリティな品種を開発したり、世界中から種子を採取していたのである。
製薬会社が大麻草から医薬品をつくるという行為に、感情的な嫌悪感をもつ方がいるが、このGW製薬は、世界のマリファナ・カルチャーの牽引してきた栽培・育種のノウハウが十二分に生かされているのである。


●医薬品の開発には、資金調達が重要!
現在の医薬品の開発には多額のお金と時間がかかる。様々な臨床試験を経て、市販されるには、9〜17年、費用は500億円かかると言われており、薬効と安全性をクリアするのに非常にハードルが高い。例えば、日本製薬工業会のデータによると、開発された化合物のうち、医薬品として市販できるのは、30000分の1と確率が低い。
GW製薬は、2001年6月にロンドン証券取引所で株式公開している。設立から5年の2003年3月にイギリス医薬品庁にサティベックスを認可申請した。しかしながら、この申請はデータが不十分ということで却下されている。5月には、ドイツのバイエル社と販売提携(イギリス・カナダ)し、ついに2005年4にカナダにおいて、神経性の難病として知られている多発性硬化症の痛み改善薬として、世界で初めてサティベックスという天然由来のカンナビノイド医薬品が発売された。
株式公開しているので、GW製薬の2001年から2012年の株価チャートを見ると。。。。

株価では、世界の製薬企業ランク第15位のバイエルとの提携が発表されると、株価が上昇し、地元のイギリスで不許可だと下降し、アメリカの治験許可で再び上昇している。治験許可をもらうのに、GW製薬はアメリカのホワイトハウス麻薬撲滅対策室の元次官アンドレア・バーサウエル氏を雇用し、2007年2月に日本の大塚製薬とアメリカでの独占販売のライセンス契約を締結した。このとき、株価はほとんど反応しなかったのはなぜか? 日本国内では大塚製薬は、オロナミンC、ボンカレー、ポカリスエット、カロリーメイトなどで有名だが、世界から見ると、製薬企業ランク第26位程度であり、市場は大手企業でないところがアメリカの市場を独占したことにあまり大きな評価にならなかったのである。
そのあと、2010年にイギリス、スペイン、2011年にデンマーク、チェコ、ドイツ、イタリア、スウェーデンで多発性硬化症の疼痛改善薬として市販されている。
●GW製薬の売上高
株価が公開されているということは、年次レポートがあり、それを見てみると。。。

07年から11年の売上高 07年から11年の税引前利益
引用:GW Pharmaceuticals plc. Annual Report and Accounts 2011 ※1ポンド=130円換算
緑色:ライセンス料、水色:研究開発料、紫色:サティベックス売上、青色:マイルストーン(予定の研究開発の課題をクリアするともらえるお金)
2011年は、29百万ポンド゙(約37.7億円)の売上があり、そのうち、サティベックスの売上が4.4百万ポンド゙(約5.7億円)あり、前年度比59%増となっている。もっとも多い売上は、研究開発料(R&D料)であり、その中の大塚製薬は、10.8百万ポンド(約14億円)を占めている。GW製薬の売上に、大塚製薬が約4割というのはかなりの割合である。
税引前利益では、09年に赤字から黒字転換となり、11年には2.5百万ポンド(約3.2億円)となっている。
ちなみに、従業員136名、経営陣16名、合計152名(2011年度)の規模の会社である。
●GW製薬のパートナー企業 世界勢力図
製薬ベンチャー企業は、世界中に自社の開発した医薬品を販売するため、大手の製薬企業と販売提携するという戦略となる。2012年段階においてGW製薬は、日本の大塚製薬がアメリカに独占販売権をもち、スイスに拠点をもつ世界第二位の大手製薬企業ノバルティスでは、アジア、アフリカ、オセアニアに販売権をもつ。EUとメキシコの販売権は、スペインに拠点をもつアルミラル、ドイツのバイエルは、カナダとイギリスに販売権をもち、イスラエルは、自国のネオファーマが販売権をもつ。

ロシア、ブラジル、中国、日本が空白地帯であり、大塚製薬が日本の独占販売権をもっていると思いきや、実はまだ正式には締結していないのである。これはおそらく日本の大麻取締法の第四条の医師も患者も使えないことがネックになっていると思われる。
●カンナビノイド医薬品の開発状況
多発性硬化症は、市販されており、大塚製薬がアメリカで臨床試験フェーズVをガン疼痛で実施中である。次に控えているのが、モルヒネなどの従来の鎮痛剤が効きにくい神経障害性疼痛、糖尿病、炎症の臨床試験を実施している。糖尿病になると実質的に善玉コレステロールが失われており、カンナビノイドは、その善玉コレステロールを上げる働きがあるのである。この作用をもちいた医薬品になると考えられている。

引用:GW Pharmaceuticals plc. Annual Report and Accounts 2011
次に臨床試験にまだ踏み込んでいないものには、てんかん、がん治療(痛み止めではない)、精神障害の3つである。特にこの精神障害は統合失調症がターゲットとしており、従来は大麻を吸うと統合失調症になるとされてきたが、今は逆に統合失調症の改善薬としての研究が進められているのである。
●Sativexは、舌下(ぜっか)スプレーで摂取する医薬品
Sativexは、乾燥した大麻草から液化二酸化炭素を使って成分を抽出し、エタノール、医薬品添加物のポリプレングリコール、味の改善のためにペパーミントを加えて、小型スプレーに封入した舌下型スプレーである。
1本で5.5ml入りで1回に100μLが正確に噴射できるようになっている。1回分は、THC2.7mg、CBD2.5mgが含有している。人によって必要量が変わるので自分で合った回数を決めることになっており、1週間で最適量が分かるようになっている。目安は1度に4〜8回となっており、THC量でみると10.8mg〜21.6mgとなる。効果は、摂取後15〜40分後に発現し、1日に使うスプレー回数は上限12回まで(THC32.4mg)となっている。
これは、マリファナ煙草1本900mg、THC10%品種で生体利用率は20%ぐらいであると、900mg×10%×20%=THC18mg摂取となる。


出典:SATIVEX Monograph(2010)
●多発性硬化症(MS)患者の痛み改善効果
■ サティベックス ■ プラセボ(偽薬)
サティベックス フェーズU/Vランダム化比較試験(RCT)
引用:Cannabinoids in Nature and Medicine(2009) p.142-155
サティベックスとプラセボと比較すると、すべてプラセボよりも効果があることがわかる。その後の追加試験でもサティベクス48%、プラセボ12%改善であった。
●医療大麻とサティベックスの違い(1)化合物の種類の差
大麻草(Cannabis sativa L.)に見出された化合物
カンナビノイド 66種 → 9-THC, CBD, CBN, etc.
アルカロイド 27種
アミノ酸 18種
脂肪酸 22種
糖類 34種
ステロイド 11種
テルペン類 120種
フラボノイド 21種
フェノール体 25種(非カンナビノイド)
炭水化物他 139種
合計 483種
カンナビノイドとは、大麻草に含まれている生理活性物質の総称である。マリファナ成分として有名なTHCは、その一つの化合物にすぎない。サティベックスは、大麻草に含まれている500近い化合物のTHCとCBDの2つだけを使ったものである。医療大麻は、THCとCBD以外の様々なカンナビノイドを摂取することで、生薬のような相互作用を狙った効き目があるのである。
●医療大麻とサティベックスの違い(2)なるべく酩酊効果がないような製剤設計
摂取後のTHCの血中濃度のピークの表れ方が全然異なる。大麻草の喫煙摂取(肺)からでは、2〜3分後に160ng/mlというピークになるが、サティベックス(舌下)は、2〜3時間後に非常に穏やかなピークとして10ng/mlに表れる。
これは、サティベックスにTHCだけでなく、CBDも半分入っていることから、作用が打ち消されたことがわかる。患者は必ずハイになることを目的とした摂取ではないので、余計な酩酊はないようにしているのである。

●医療大麻とサティベックスの違い(3)細菌やカビなどの品質管理が万全である
サティベックスは、高THC品種から抽出されたテロラナビネックスと高CBD品種からから抽出されたナビデオレックスという2つの天然大麻由来の抽出液体を混ぜ合わせてできたものなのである。当然、医薬品としては、社内で植物性原液としての規格が決められ、一定の品質が保持できるように管理されている。

準拠:US Food and Drug Administration Guidance for Industry Botanical Drug Products
●サティベックスの気になる価格は?
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サティベックス 1本 5.5ml 125ドル(保険なしの場合) 1日目安 4回 ・・・月3本 375ドル 3万7500円 1日目安 8回 ・・・月5本 625ドル 6万2500円 1日上限 12回 ・・・月7本 875ドル 8万7500円 |
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マリノール(合成THC) 制吐剤、食欲増進 1回 5〜15mg 服用 月1000ドル 10万円 |
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医療大麻(マリファナ煙草) 1本 900mg 15ドル アメリカ・カルフォルニア州 月30本 450ドル 4万5000円 |
わかりやすいように、1ドル=100円で計算。
これを見る限りでは、医療大麻<サティベックス<マリノールという順番で、月平均の購入価格が高くなる。医療大麻について各地によって、また各個人の症状によって、使用量がまちまちだと思うので、これが平均というものがなかなかなので、現地からの伝聞での価格をだいたいで当てはめてみた。大幅に違う場合は、ご指摘をいたただければありがたい。
●THCとCBDの治療比率で治療分野が異なる

GW製薬の研究成果は、このTHCとCBDの比率でターゲットなる治療分野が異なることを明らかにした点であろう。THCのみのものには、がん疼痛、偏頭痛、食欲刺激によく、サティベックスのような半分半分は、多発性硬化症、脊髄損傷、抹消神経疾患、神経原性疼痛によく、ややCBDの方が多いものは、関節リウマチと炎症性腸疾患がよく、高CBDなものは、精神性障害、てんかん、運動障害、卒中、頭部外傷、関節リウマチ、炎症状態の疾患修飾、食欲抑制によいと分類された。
●まとめ
サティベックスとは、世界初の国際的な基準に準じた天然由来カンナビノイドの医薬品である。
THCとCBDの組み合わせで様々な疾患に対応できることを明らかにした。
アメリカの独占販売権は大塚製薬。フェーズVが終了後に医薬品認可へ 2013ー15年?
日本でサティベックスを使うには大麻取締法第四条を廃止が必須である。
以上
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