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13年1月号
2012年度のアサ畑土壌およびその収穫物の放射性物質の測定調査
〜 アサは、放射性物質を吸収せず、無視するの巻〜
●調査結果の概要
アサ(Cannabis Sativa L.)は、3ヶ月で3mに生長する農作物であるため、重金属や硝酸性窒素の吸収量が比較的多く、ファイトレメディエーション(植物による環境浄化法)に利用できることが知られている。しかしながら、アサ畑およびその収穫物の放射性物質の吸収量や移行係数に関する知見には乏しい。そこで、栃木県と群馬県によるアサ栽培者の協力を得て、土壌および収穫物を採取し、その放射性物質I-131、Cs-134、Cs-137の3種を測定した。測定結果は、2011年度のデータと比較して考察をした。
栃木および群馬のアサ畑の周辺土壌は、腐葉土を含む肥料基準の400Bq/kgより少ないことが明らかとなった。アサの放射性物質の吸収挙動の全体像は不明だが、100〜150Bq/kg程度の土壌条件では、アサ畑から収穫された繊維や種子等への放射性物質の吸収・吸着が極めて少ないことが示唆された。しかし、放射性物質が高濃度(例えば1万Bq/kg以上)である農地での吸収挙動が不明である。本研究のデータを踏まえて、次年度の測定実験の各種条件を検討することが今後の課題である。
1.測定地域の放射性物質濃度および国の規制値
表1 2011年の測定地域の空間線量
県名 | 測定場所 | 測定高さ | 日付 | 空間線量(μSv/h) |
栃木県 | 鹿沼市役所 | 地上から50cm | 5月31日-10月31日 | 0.10〜0.12 |
永野小学校校庭 | 地上から50cm | 10月24日 | 0.14 | |
群馬県 | S公園 | 地上から50cm | 8月〜12月 | 0.17〜0.13 |
表2 2012年の測定地域の空間線量
県名 | 測定場所 | 測定高さ | 空間線量(μSv/h) |
栃木県 | 鹿沼市永野地区 | 地上から1m | 0.1〜0.2 |
群馬県 | S公園 | 地上から1m | 0.1〜0.2 |
表3 2011年の測定地域の土壌濃度
県名 | 測定場所 | 測定物質 | 土壌濃度(Bq/u ) |
栃木県 | 鹿沼市永野地区 | 放射性セシウムCs-134、Cs-137 | <1万 |
群馬県 | 某所 | 放射性セシウムCs-134、Cs-137 | 1万<3万 |
表4 2012年の測定地域の土壌濃度
県名 | 測定場所 | 測定物質 | 土壌濃度(Bq/u ) |
栃木県 | 鹿沼市永野地区 | 放射性セシウムCs-134、Cs-137 | 1万<3万 |
群馬県 | 某所 | 放射性セシウムCs-134、Cs-137 | 3万<6万 |
表5 国の放射性セシウム濃度規制
対象 | 規制値(Bq/kg) | 根拠 |
肥料(腐葉土含む) | 400以下 | 農水省通知:2011.8.2 |
木炭 | 280以下 | 林野庁通知:2011.11.2 |
薪 | 40以下 | 林野庁通知:2011.11.2 |
水 | 10以下 | 2012年4月〜 厚生労働省発表2011.12.22 |
一般食品 | 100以下 | 2012年4月〜 厚生労働省発表2011.12.22 |
水田作付制限 | 5000以上 | 政府発表:2011.4.8 |
農地の5年後の除染目標 | 1000以下 | 飯舘村及び南相馬市の除染計画より |
低レベル放射性廃棄物 | 100以上 | 経済産業省令第112号:2005.11.22(※) |
管理型処分場埋め立て基準 | 8000以下 | 環境省通知:2011.12.23 |
2.測定目的、試料、測定条件
<測定目的>
栃木県と群馬県による2012年度のアサ畑の土壌およびその収穫物の放射性物質I-131、Cs-134、Cs-137を測定し、2011年度のデータと比較して次年度の放射性物質高濃度地帯へのアサ栽培実験計画の検討材料を得ること
<土壌の試料>
1)栃木の無耕作地、2)栃木のアサ畑、3)群馬の無耕作地、4)群馬のアサ畑
無耕作地は、2011年3月11日以降、何も作付されず、耕うんもされていないアサ畑の周辺にある農地。土壌の採取は、栃木2012年12月28日、群馬2012年12月4日に実施した。土壌は、表土を取り除かずに深さ10cmの土壌採取で標準的に使われている五点法によりそれぞれ1.0kgを採取した。

写真1 土壌採取の様子
<収穫物の試料>
5)栃木の精麻、6)栃木のオガラ、7)群馬の麻の実、8)群馬の麻茎、9)群馬の麻の根
栃木のアサ畑の栽培目的は、繊維採取であり、群馬のアサ畑の栽培目的は、種子採取であるため、それぞれの収穫物についてそれぞれ1L程度を採取し、2-3cmに細かく粉砕機にかけて測定試料を用意した。
<放射性物質の測定条件>
使用機材:応用光研工業FNF401(小さき花SSS所有)、2013年1月7〜9日に測定を実施した。
メーカー保証検出限界:1000秒 10Bq/kg
土壌の試料はすべて1000秒、収穫物の試料は栃木3600秒、群馬1800秒で測定。

写真2 応用光研工業FNF401を使用した測定の様子
3.測定結果
図1 栃木県における土壌の放射性物質測定結果

※11年耕作地=耕うん1回を実施した後、その年は何も栽培していない畑地
この耕作地は12年アサ畑として使われた
図2 群馬県における土壌の放射性物質測定結果

表6 栃木県のアサ畑からの収穫物

※麻幹(オガラ):アサの繊維を剥いだ後の木質部分
表7 群馬県のアサ畑からの収穫物

※麻茎:麻の実を収穫した後の繊維部分を剥いでいない状態の茎
4.考察
2012年の土壌中の放射性物質は、栃木・無耕作地313.39Bq/kg、栃木・アサ畑127.47 Bq/kg、群馬・無耕作151.13Bq/kg、群馬・アサ畑163.36 Bq/kgであった(図1および図2参照)。2011年の栃木・無耕作地の171.72Bq/kgと比較して大幅に濃度が増えたが、平成24年4月24日に公表された栃木県全域の農耕地土壌の放射性セシウム濃度調査結果によると測定場所と同じ鹿沼市内で69〜300Bq/kgであり、今回の測定値はその範囲を若干上回っていた。逆に2011年の群馬・無耕作地の363.56Bq/kgと比較して半減以下と大幅に減少したが、2012年の測定値は、平成24年3月23日に公表された群馬県農地土壌の放射性セシウムにかかる調査結果によると近隣の富岡市宇田の普通畑160Bq/kgとほぼ同じ数値であった。
栃木および群馬の両県の無耕作地は、福島原発事故のあった2011年3月11日から1度も耕耘せず、何も栽培されずに放置した状態で表土も含まれるため、アサ畑の周辺に降下したCs134およびCs137の総量の値と考えられる。2011年および2012年の測定値は、国の基準と比較すると栃木および群馬の無耕作地の土壌は、肥料400Bq/kg基準以内であることが明らかになった。但し、両県の無耕作地およびアサ畑は、福島原発事故以前の経済産業省令による低レベル放射性廃棄物の基準値100Bq/kgを超えており、原発から150〜200km離れた土地においてもその影響の大きさを物語っている(表5参照)。
一方、2012年のアサ畑では、2011年の栃木103.18Bq/kg、群馬149.85 Bq/kgと比較して、栃木1.23倍、群馬1.09倍と両県ともに若干高かった。11年耕作地は、耕うん1回を実施した後、その年は何も栽培していない畑地であった。翌12年にこの耕作地はアサ畑として使われ、今回のアサ畑の測定地点とした。11年耕作地は、98.07Bq/kgであり、12年アサ畑として使われた後の土壌は127.47 Bq/kgであり、前年より高かった。
2012年の収穫物中の放射性物質は、栃木の精麻(繊維)、麻幹(繊維をとった後の残りの茎)、群馬の麻の実、麻茎、麻の根のいずれの試料からも検出されなかった(表6、表7参照)。放射性物質が100〜150Bq/kg程度の土壌条件では、アサは、土壌中の放射性物質の吸収・吸着には全く寄与していないことが明らかとなった。2011年の栃木の収穫物から放射性物質が微量に検出したことは、アサ収穫後の干す工程や軒先での野外保管したときによる放射性物質の付着が考えられた。群馬のアサは収穫後にすぐビニールハウス内で管理されており、土壌の放射性物質の濃度が栃木よりも高いにも関わらずたまたま付着がなかったものと考えられた。
アサの栽培地が、群馬12年無耕作地を除いて、周辺土壌である無耕作地よりも低い数値となっているが、これは耕うんの影響が大きいと推測された。耕うんの影響は、福島県農林地等除染基本方針(2011年12月22日発行)によると、ロータリー耕で57〜75%の減少が報告されている。アサ畑において播種前に必ずトラクターを使って耕うんすることと、アサの収穫物からの放射性物質が検出していないことから、表土に沈着していた放射性物質が耕うんによって土壌深くに移動したことで減少したにすぎないと考えられた。両県ともにアサ畑が前年よりも僅かに高い値となったのは、前年度に土壌深くに移動した放射性物質が今年度の播種前の耕うんによって表面近くに再び移動したと推測できる。
しかし、2011年と2012年のデータだけでは、アサが放射性物質を全く吸収・吸着しないと結論づけることは難しい。なぜならば、土壌中の放射性物質が極めて高濃度な土壌条件、例えば10000Bq/kg程度でも全く吸収・吸着しないのか、あるいは極めて低い吸収挙動しか示さないのかが不明だからである。
さらに、アサは大麻取締法によって葉や花穂をアサ畑の外へ持ち出すことが禁止されているため、その部位への放射性物質の吸収量が不明な点も挙げられる。重金属や硝酸性窒素は、葉や小さい枝に集まりやすいことが知られているため、アサの植物体まるごとを試料とし、その部位ごとの放射性物質を測定することが次年度の課題である。
5.まとめと課題
1.栃木および群馬のアサ畑の周辺土壌は、腐葉土を含む肥料基準の400Bq/kgより少ないことが明らかとなった。
2.アサの放射性物質の吸収挙動の全体像は不明だが、100〜150Bq/kg程度の土壌条件では、アサ畑から収穫された繊維や種子等への放射性物質の吸収・吸着が極めて少ないことが示唆された。
3.放射性物質が高濃度(例えば1万Bq/kg以上)である農地での吸収挙動が不明である。
4.本研究のデータを踏まえて、次年度の測定実験の各種条件を検討すべきである。
<謝辞>
栃木および群馬のアサ栽培者、神澤氏、神嵜氏、小さき花SSS代表の石森氏のご協力および助言によって本実験を推進することができました。ありがとうございます!!
<参考>
赤星栄志、2011年度のアサ畑およびその収穫物の放射性物質の測定調査
http://www.hemp-revo.net/report/1201.html <2011年1月公表>
以上
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